大阪地方裁判所 昭和41年(わ)2292号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕一、同条の「診断書」とは、医師が診察の結果に関する判断を表示して人の健康状態を証明するために作成する文書である。そこでまず、入院に関する記載が虚偽診断書作成罪の対象事項であるか否かについて考えるに、診断書は、通常、医師が診察の結果知りえた疾病、創傷、健康状態などにつき、その病名、症状、創傷の部位程度、健康状態の良否に関する認識と判断が記載されるが、それは必ずしも医師の専門的知識と経験にもとづいて診察した事項に限られるものではない。入院の有無は、加療の必要性とその程度を推測させる事情であり、その限りにおいて傷病の重さをある程度示す事項である。勿論人それぞれの事情によつて、重篤な病人が入院しないで自宅療養しているばあいもあれば、たいした病気でもないのに入院治療しているばあいもあるから、入院の有無はあくまで「ある程度」参考になる事実にすぎないものではある。同様に、入院の時期についても、例えば最近入院したのか、それとも数か月あるいは数年前から入院しているのか、等を想定すれば、入院時期が傷病の状況に一定の説明を与えるものであることが理解できる。このように入院に関する事実は、それが記載されれば、やはり傷病ないし健康状態を、間接的ではあるがある程度説明するものとして(医師もそのつもりで診断書に入院の事実を記載している筈である)本罪の対象たる事項と解すべきである。
それでは、公訴事実第一の診断書に「ひき続き昭和四〇年二月二日本院入院」とある記載は虚偽と認めるべきであろうか。診断書に記載される入院に関する事項のもつ意義を、前記のように理解すれば、記載されるべき入院の始期は現実に入院した時点でなければならないであろう。ところが本件のように入院手続をとり、病室に荷物まで入れて病室の使用を開始しておきながら(たんなる入院の予約ではない)、現実に診療を受けはじめたのがその約一週間後であつたばあいは事柄は簡単ではない。診断書の性格からして、厳密にいえば、「二月一〇日入院」と記載する方がのぞましいことは明らかである。しかし本件のような病気で、一週間程度の入院時期の相違は病状についてどれほども異つた意味を附与するものではないし、また医師が患者に対して入院費を請求し、あるいは保険関係機関に診療報酬を請求するときの入院の始期は当然入院手続をとつた二月二日ということになるが、同じ医師の業務としてこれらの取扱いとの整合性を全く無視することも相当ではない。そして前述したような、入院に関する記載の、症状を説明する記述としての間接的、参考事項的性格をもあわせ考えると、これも程度問題ではあるが、形式的に入院手続をとり、ひと月もふた月も入院時期を遅らせたようなばあいとは異り、入院手続をとつた日に現実に病室に荷物をもちこんで部屋の使用を開始し、約一週間後には入院している本件のようなばあいには、入院手続をとつた時点を入院日と記載したからといつて、これを虚偽の記載であるとまでいうことはできない。
二、つぎに、公訴事実第二の診断書に、昭和四〇年二月二七日の時点で「入院加療中」と記載することが、虚偽であるかどうかについて考えるに、なるほど当時花田は病院に殆んど居らず、従つて診療も治療を受けていなかつたのであるが、無断外出、外泊中であつても入院中であることにはかわりはないし、患者としてはいつでも入院している病院での診療を受けうる状態にあり、「入院加療中」とはこのような状態をも含めて用いられることばである。したがつて、現実に診療行為をしていない時期であつても、それが外出外泊等による一時的なものと考えうる以上(そしてこの時点では、まだ花田が病院に戻る意思がないことは明らかになつていない)入院中でさえあれば、「入院加療中」と記載したからといつて、これを虚偽の事実記載ということは相当でない。
(梶田英雄)